男社会っていう一言で済むもんじゃないでしょうに


 アメリカ人の友人から、「だって日本は、男社会だものね」という一言で片付けられてしまい、反論もできなかったことがニ度ある。
 両方とも、医療の話題だった。
 一つは、無痛分娩。もうひとつはバイアグラと低用量ピルに関してだ。 

 アメリカの麻酔技術は、とても進んでいる。そして、とても麻酔自体が普及している。
 なんせ、親知らずを抜くのですら、全身麻酔をする国なのだ。
 だから、分娩時に、母親が麻酔を使って無痛分娩をすることは、当たり前になっている。
 妊婦は出産前に、麻酔をするのか、するのであれば、どんな種類の麻酔をするのかの承諾書を医師に作ってもらい、分娩のときに自分で選べるようになっているのだそうだ。
 日本では、どういうシステムかと聞かれ、「麻酔をしないほうが普通よ、そんな承諾書なんて、ないわ」と答えると、その場にいた全員が、「死んじゃうわー」と、叫んだのだった。
 ある一説には、男性があの分娩の痛みを経験すると、あまりの痛さのあまり、失神、もしくは絶命すると言われている。確かに、二人産んでみたが、この痛みは想像を絶する。ほんの数十分なら我慢できるかもしれないが、出産などというものは、いつ始まっていつ終わるかなんて判らない。全く先の見えない、不安一杯の痛みだ。
 この痛みを乗り越えてこそ、母親になれるという考えもあるかもしれない。
 しかし、その痛みを経験して、二度と子供を作りたくないと考える人もいる。
 出産後、疲れきってしまう人も多いだろう。
 それならば、自分でもっとどうしたいかを選べればいいのだが、どの産婦人科でも無痛分娩をさせてくれるわけではない。麻酔医が常駐し、それなりの施設がある病院でないと、無痛分娩で産むのは無理だ。また、事細かに妊婦がどういったお産をしたいのか全面的にその望みを受け入れてくれる病院も、多くはないだろう。
「日本の産婦人科医が、ほとんど男性だからそうなるのよ」
 友人が言った一言は、本当かもしれないと思い、反論できずにいた。

 しかし、アメリカ人のなかには、麻酔をせず、自宅で分娩した友人もいる。
 羨ましいと思うのは、日本よりも、選択肢が多いということだ。


 2ヶ月ほど前、また、アメリカ人の友人が、日本でバイアグラが認可されたという話題を持ち出した。
 申請から、たった6ヶ月ほどのスピード認可だったらしいと、友人は新聞から仕入れてきた情報を、私に聞かせてくれた。
「低用量ピルなんて、承認してほしいと日本人の女性たちが厚生省に10年もかけて交渉してきたのに、まだ認可されないんですって。なのに、バイアグラは、ほんとうに、すぐに認可されて。ね、どう思う?」
「それは、きっと……悔しいけど、役所のほとんどのメンバーが男性だからでしょうね。ピルは彼らには関係ないけど、バイアグラは関係あるから」
「ええ、ええ、そうよね。でね、新聞では、こう書いてあったの。これは、産婦人科の病院を守るためだって。日本って、堕胎手術は合法よね。ピルのほうが安いから、そちらをみんな飲むようになったら、手術の件数が減るでしょ。だから、病院を守るために認可しなかったんだって」
 この考えには、全く声が出なかった。
 きっぱりと、否定したかった。しかし、もしかしたら、認可をずるずると引き延ばしてきたのには、そのような裏でのしがらみがなかったとは、どうも言い切れないような気がしたのだ。
「否定は、できないわ。でも、肯定もできないわ」  そう答えるのがやっとだった。

 低用量ピルも、近々日本でも認可されることになった。
 結果から言うと、認可までにあまりにも時間がかかったにしろ、認可されること自体は、歓迎すべきことだと思う。
 なぜなら、インターネットを使い、「低用量ピル」で検索すれば、低用量ピルをアメリカから非合法で代行輸入する業者にたくさん行き当たる。
 しかし、低用量とはいえ、ピルにはホルモンが含まれている。それなりに、副作用も心配しなければならないだろう。それを、素人判断で飲み始め、専門医の診察も受けずに飲みつづけるのは、賢い判断とはいえない。
 アメリカでは、産婦人科医、あるいはホームドクターから子宮癌検診を受け、正常だという結果が出てから6ヶ月以内であれば、医師からバースコントロール用のピル、つまり低用量ピルの服用を許可してもらえる。
 通常は、2ヶ月分のサンプルを貰い、それを飲む。
 服用している途中で、医師とのカンファレンスを入れ、吐き気や出血などの副作用がないかがチェックされ、それでOKなら初めて処方箋が手渡される。そしてまた、半年ごとの子宮癌検診が義務付けられている。
 女性が自分の判断で、自分の体のことも避妊のことも決められるのは、大切なことだ。
 それに加えて、薬を服用することでの副作用を本人だけではなく、専門医からもチェックを受けるということは、とても大切なことだと思うのだ。

 去年の暮れ、私はかかりつけのホームドクターのところで定期検診を受けた。
 心電図から、何からなにまで、もう、足の裏まで見てもらった。
 このホームドクターは、いつも風邪をひいたときにお世話になっている先生だ。もちろん、産婦人科関係の検査もしてもらった。もしも疑わしい結果が出たときには、専門医を紹介してもらう手はずになっていた。
 さて、このとき、胃の中のピロリ菌も調べてもらった。
 この菌は、胃潰瘍と密接な関係にあり、胃潰瘍の人の胃の中には、必ず住んでいるというのだ。胃潰瘍は酷くなると、胃癌に発展する。早くピロリ菌を見つければ、胃癌になる危険度も下がるということだった。
 看護婦さんが持ってきたのは、カッターの先のような刃物が入ったカプセルと、針のように細いガラス管3本だった。
「これはね、まだ、日本じゃ認可されてないの」と、看護婦さんは説明する。
 カッターで指先を切り、血をガラス管にとる。それを小さなシャーレにのせ、薬を入れて5分待つのだ。
「これで、ピロリ菌がいたら、抗生物質を3日ぐらい飲めば、菌は殺せるんですよ」
 看護婦さんの話しに、頷く。
「日本じゃ認可されていないってことですが、じゃ、日本じゃどうやって検査するんです?」
「それはね、みんな辛い思いをして、胃カメラとか飲んで、検査してるんですよ」
 絶句した。

 薬って何だろう、検査って何だろう、と思った。
 何のための認可なのだろうか。

 それを使いたいと望む人がいるのに、他の国ではもう普及しているにもかかわらず、どうして、認可しないのだろうか。
 あるいは、ある国がその薬は危ないと警告していたのにもかかわらず、日本はある薬をどうして警告を無視し続けて認可していたのか。

 男社会だからって、それだけで判断していい問題じゃないよな、と、そう強く感じた。

      

1999/03/07



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