ハロウィーン




お菓子の袋を六袋買った。
玄関にあったカボチャも、子供たちが目や鼻をくりぬいて、ジャック・オー・ランタンにしてくれた。後は、当日を待つのみ。ハロウィーンの我が家での準備は、一応終わった。

ハロウィーンとは、ケルト人の祭りが起源らしい。それがキリスト教に取り込まれた。ケルト人は死者の魂が10月31日の夜に家へ帰りつくと信じていた。キリスト教では11月1日が万聖祭なので、その前夜祭として祝いだしたのだという。All Hallows Evenが縮まって、Halloweenになったという。

しかし、こういう起源を知っているアメリカ人は少数だろう。お祭りは、そうであっていいと思う。ハロウィーンとは、子供が仮装して近所をまわり、お菓子をもらって来る日だと、私も思っているのだから。

家によっては、その年に子供が何に仮装するのか決めるのが重大行事になっているところもある。たとえば、私の裁縫が得意な友人の場合、何ヶ月もかけて衣装を縫ったことがあった。子供は移り気だから、数ヶ月前の希望と、数日前の希望ががらりと変わってしまったりする。相手は子供だから、「もう、変更はできないのよ」といわれても、納得するわけがない。その次の年は、彼女は子供を連れて衣装を買いに出かけた。私も彼女の気持ちがよくわかる。
また、別の友人のところには、子供があわせて7人いる。
友人は、7人ばらばらの格好をするよりも、統一したほうがキュートだと言っていた。だから、7人とも、全員M&M's の格好をさせた年もあった。「全員のサイズの衣装をそろえるのは大変だったわ」と、彼女は言っていたらしい。それも、もっともなことだ。

ハロウィーンの衣装はハロウィーン前になれば、おもちゃ屋、ドラッグストア、スーパーマーケット、どこにでも手に入る。中には、一年に数ヶ月だけ、ハロウィーンの衣装専門に店を開くところもあるぐらいだ。その他の月は店舗には商品もなく、閉まったままだ。しかし、9月に入ると商品が入り、大きな黒とオレンジで書かれた看板がオープンしたことを告げる。子供も大人も、そういうお店で、衣装を買うというわけだ。きっと、7人の子持ちの彼女は、オープンとともに、衣装を買いに走ったのではないだろうか。

ハロウィーンの仮装は子供の専売特許だと思っていたが、大人も仮装する。ハロウィーンの日に銀行に行けば、窓口にはドラキュラとか、スーパーマン、オズの魔法使いのドロシーが並んでいる。スーパーマーケットでも、レジやデリカテッセンのコーナーに、美女と野獣のベラやシンデレラが働いているのだ。今年は、映画の影響でスパイダーマンがたくさん出てくるのでは睨んでいる。

こんなに楽しいハロウィーン、昔のスヌーピーのマンガでは、子供だけで近所をまわっているのが描かれていた。しかし、今は、学校のほうからも、必ず大人の人と回るように子供たちは指導を受けている。
「楽しいハロウィーンを!」と書かれた学校から来る紙には、その他にも、包みが無いお菓子や包みが開いているものは食べないようになど、事細かに注意書きが書かれている。

今から30年ほど前は、子供たちだけでお菓子をもらいに近所をまわったという。その頃のお菓子は、小さな林檎だったり、家で焼いたクッキーであったり、大袋で買ったお菓子を包まずにそのまま子供の持っているバッグに入れてやったのだそうだ。誰も、子供に悪さをするなどと思いもつかなかっただろう。
しかし、子供に渡した林檎に、剃刀の刃を仕組んだ事件があった。それから後は、小さな林檎はハロウィーンに配られることはなくなったという。現在では、一人分のお菓子がしっかり包装されているのが主流になっている。

大袋のお菓子を目の前にして、この世界には満足に水も飲めずに食べ物ももらえない子供もいるのだなと、ぼんやり考えていた。

でも、今キャンディーをもらった子供たちが、小さな贈り物を貰った喜びを知って、今度は、恵まれない子供のために、自分の持っているものを差し出せるそんな心の豊かさを得てくれたら。

お菓子の袋を六袋買った。
玄関にあったカボチャも、子供たちが目や鼻をくりぬいて、ジャック・オー・ランタンにしてくれた。後は、当日を待つのみ。ハロウィーンの我が家での準備は、一応終わった。

M&M  アメリカでポピュラーなチョコレートのお菓子
オフィシャルサイトはこちら http://www.mms.com/

2002/10/29



このエッセイはInfo Ryomaのコラムに書き下ろしたものです


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