2000年12月8日





「お茶漬け」




春には 薄青で桜の花を描いたお茶わんに

白い白い 南天のお箸

ほろ苦い 菜の花のお漬けもの

口の中には 春がほんのりひろがって

熱い熱い おぶかけて

さらさらさら ちんちんちんと

お茶漬けを いただきますねん



夏には

去年の冬に漬けといた 樽のおこうこ

千六本に 水に晒して

土生姜をすったんを こんもり山のようにのせ

横にはおなすときゅうりの 鮮やかな糠漬けそえましょか

白に淡い青を渦に落とした 透き通るほどの薄いお茶わんに

星 散らしたみたいな 螺鈿のお箸をそえて

とびっきり冷やした 麦茶をいれて

さらさらさら ちんちんちんと

お茶漬けを いただきますねん



胃に悪いと 東京のお人は言わはるけど

お茶漬けがのうなったら お膳をいただく楽しみがのうなります

お櫃に入ったご飯が冷めたとき

お茶漬けがのうては この喉をとおりませんて



秋には

漬けあがったばっかりの 梅干をいれてもええし

昨日の残りもんのお造り 紫に漬けたんをのせてもええし

土の肌触り残る 大ぶりのお茶わんに

温かみのある 黄楊の細い細いお箸で

熱い熱い おぶかけて

さらさらさら ちんちんちんと

お茶漬けを いただきますねん



冬には

白菜の漬けたんと 生姜のたんと入った蜆の佃煮

さぶなって千枚漬けや 酸っぱいすぐきも美味しいし

樽のおこうこの漬け具合も ちょっとお味見してみたいし

可愛らしい おてしょうにお菜箸で盛って

雪兎の描いてある こっぽりしたお茶わんに

金でちょっとお化粧した 紅い塗りのお箸で

熱い熱い おぶかけて

さらさらさら ちんちんちんと

お茶漬けを いただきますねん



そんなんが 朝餉になるかと 言わはるお人もいたはるけど

熱々のお茶漬け ふうふうとお腹に入れて

いて さんじますと 出かければ

寒い日も 暑い日も

なんとのう 幸せで ええ日が来るような気がすんのは

私だけでは おませんやろ



季節におうた お茶わんと

手にしっくり馴染んだお箸で

おてしょうに お漬けもん こんもりのせて

熱い熱い おぶかけて

さらさらさら ちんちんちんと

お茶漬けを いただくのは

上方の 心意気やと 思ておくれやす



おぶ    お茶のこと
紫     お醤油のこと 「おしょゆう」と発音することが多い
おてしょう 食事に使う小皿のこと







零した言葉 アルビレオ日詩